Ⅳ Crescens

Ⅳ Crescens

嬉しいンだ　こうして生きられることが
苦しい　こうして生きている事が
憂しいな　私はまだ生きている
生きている

楽しいンだ　こうして何かを作ることが
悲しい　天秤が釣り合うことなど　二度と無いのに
愉しくないな　もっと違う事を
作っている

苦しいンだ　こうして誰かが傷つくことが
重い　それさえも代償に思えて
苦しいな　誰も傷つけられない
傷ついている

悲しいンだ　こうして何かが悲しむことが
痛い　はり裂けるような痛みを　与え続けてきたことが
残酷だな　終わりにしてやればいいものを
悲しんでいる

好きなンだ　こうして回る世界が
ともすれば　止まってしまいそうになる
嫌いじゃない　こうして巡る世界は
世界がある

嫌いなンだ　止まってしまうことが
踏み出す一歩ごと　滲むのは振り払いきれぬ不安
そもそも　本当に進んでいるのか
立ち止まっている

だから　私は歩き続けることにしたンだ
例えそれがどのような道であろうとも
分かれ道を　間違えたとは思わないのか
己を置いて

迷っても良い
迷いながら
最も大きな迷いは　許容しないまま
俯瞰する

思うように　生きようと思ったンだ
己の　選び取った願いのために
妥協案にも似た泥濘を
生きている？

今日は　きれいなみかづきだ
今日は　三日月だ
今日は　三日月なのか
今日は　三日月だ

細くするどく　なンて　言ってたのは誰だっけ
美しい刃のように　鋭く心を抉るような
たまらなく綺麗で　いとおしい
三日月だ

なンてことのないみかづきで
初めて見た月と同じ形の　三日月を
一番特別な　愛すべき月を
見ている

おつきみでも　しようかな
ただ見上げる　何かを思い出そうとしながら
独り　見上げるのも悪くない
見上げている

美味しいお菓子つくって
初めて見た月は　ひどい味をしていた
味わってきたものの　幻想に浸って
喰う

きれいに飾り付けして
赤く彩られて　それ自体も赤くきれいで
これから彩られる筈だったものを　夢想し
飾る

誰かを誘ってみるのも　悪くないなぁ
誰と見たのかも　はっきりと憶えていて
誰かに会いたくなりながら
誰かが居る

誰か　来てくれそうな人を思い出してみて
その時自分が何を考えていたのかは　思い出せない
敢えて省く思い出を　掘り起こしてみようか
記憶を探る

誰か　来てくれるかなぁ
何処に来るというのだろう　一体　何処に
いっそのこと
指令を

誰か　…
誰か　…
誰か　…
誰か　…