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床屋 「天使の輪」 (ただのSS)


夜と深夜の境目……あたりに明かりはなく、秋の虫も鳴くのをやめる頃。

とある裏通りに、「天使の輪」という小さな床屋があった。
その店の入口に、緊張した面持ちで立つ茶髪の青年が一人居る。

「……よし、行くぞ。絶対、成功させる!」

ごくりと生唾を飲み、彼は何かを決意した表情で、天使の輪の扉をくぐった。


話は六ヶ月前に遡る ―――――

とある裏通りに、「天使の輪」という小さな床屋があった。

店主の愛想は良くないが、安くて早くて綺麗に仕上がり、また、客の素性に関して全く干渉しない為、
裏通りではそこそこ評判で、男女問わずそこそこの客が、そこそこやってくる店だった。

今、店に入っていった彼は、常連客の一人。名をカティという。
ありきたりな茶髪に茶色の瞳だが、よく整っていながら、人好きのする顔をしている。
少しばかり女性にルーズなところがあり、現在進行形で4人の女性と付き合っている上、
過去に交際した女性の数は三桁に上らんとする勢いであるが、
幼少の頃から腕を磨き続けた、凄腕の冒険者でもあり、既にけっこうな財産を持っているのだが、
駆け出しの頃に世話になったこの床屋に通い続ける、義理堅い人物でもある。

「いらっしゃいませ!」

カティが店に入ると、よく通る凜とした声が響く。
彼は度肝を抜かれたように一瞬、店の入口で立ちつくした。

それも無理はない。ここの店主は愛想が良くない……それ以前に、中年の男だ。
こんな綺麗な声を、出せるはずがない。
では、今の声は何だとカティが店内を見渡すと、
店の奥から此方に小走りで駆けてくる小柄な人影が、すぐに眼に留まる。

豊かな金色の髪を高い位置で一つに束ね、淡い翠色の瞳をした、色の白い少女だった。
「いらっしゃいませ! 本日は、如何いたしましょう?」
少女は、人なつこい笑顔を浮かべて、物怖じせずにカティを見上げて問うてくる。
「あ、ああ……いつものカットで。それより、君は?」
「私、一週間前からここで働いている、美容師見習いのルピって言います!
 まだまだ新米で、髪を切るのは無理ですけど……よろしくおねがいします!」
カティが、少女の笑顔に多少ドギマギしながら、答え、また尋ね返せば、
少女はそう言って、カティへ、ぺこりとお辞儀をした。

少女の綺麗な髪が、お辞儀に併せて揺れるのを見ながら、カティはよろしく、とルピに言う。
いつもどこかしら薄暗く、辛気くさい天使の輪が、
ルピが一人居るだけで、照明さえ明るく見える気がして、カティの口元が思わず綻んだ。
今まで付き合ってきた女性とは違う、ルピの明るいのにどこか儚げな雰囲気が、興味深くもあった。

ルピに案内され、そのまま洗髪してもらってから、席に着く。
無骨な主人の手ではなく、喩え不慣れで危なっかしくとも、か細い少女の手で髪を洗われるのは、
カティにとって至福のひとときだった。

席について、髪を拭いているルピに、カティは楽しげに話しかける。
「いやあ、ルピちゃんが来てくれてよかった!此処、前はけっこー辛気くさかったんだぜ!
 あの店主はさ、腕は良いし、イイヤツなんだけど、ちょっと愛想悪いしなー!」
「ふふふ、そうなんですか?じゃあ、もっとこの店が明るくなるように、がんばります!」
「そうしてくれると助かるよ!俺、黙ってるとなんか居心地悪く感じちまってさ……」
「そうなんですか?じゃあ、カティさんが来たときは、たくさんおしゃべりしないと!」
「へへっ、それは嬉しいなあ!よろしく頼むよ、ルピちゃん!」
「はい!あ、それじゃ、私、他のお客さんのお勘定がありますので、失礼しますね!」
ルピは可笑しそうに笑って言い、髪を拭き終えてカティから離れ、髪を切り終えた他の客の
勘定をするために、髪を揺らしながら走っていった。

カティがしばしの間、ルピの揺れる髪に見とれていると、
先ほどちょっと愛想悪いと評された店主が、ハサミを片手にやってくる。
「辛気くさくて悪かったね…。」
店主がぼそっと言い、カティの笑顔が引きつった。

店主の腕は確かだ。ルピの不慣れな洗髪と同じぐらいの時間で、カティの伸びかけていた髪は
さっぱりと切り揃えられ、整った容姿を更に際立たせるに至った。
これならどんな女性も、思わず振り返ることだろうと、カティは鏡を見て自画自賛する。

呆れた様子で次の客の散髪に向かう店主を放って、カティはそのままルピの待つカウンターに
小走りで向かい、安い散髪料を支払った。
「ありがとうございます!銅貨10枚、ちょうどお預かりいたします!」
ルピは銅貨を受け取って、笑顔でカティを見上げる。
「うん。ところでこの髪型、どうかな?」
「はい、とてもよく似合っていてかっこいいと思います!」
「そっか!」
少しばかりの雑談。気兼ねなく応じてくれるルピに、カティは益々気をよくして、
二人は少しの間、笑いあった。

「あの……」
それじゃあ、と立ち去ろうとしたカティを、不意にルピが呼び止める。

「……また来てくださいね!」
カティが振り返ると、笑顔で、どこか恥ずかしそうに言うルピが見えて、
カティは、場慣れている筈の自分が、何故かしら微かに赤面するのを感じ、慌てて背を向ける。
「おう……」
そのまま格好を付けるように手を振って、カティは店をあとにした。

「絶対来るに決まってんじゃん…!!」
裏通りを歩きながら、カティは、次に前髪が目にかかるのを、早くも楽しみにするのだった。



一ヶ月後、再びカティは、天使の輪に訪れた。

「いらっしゃいませ!今日は如何されますか?」

凜とした、よく通る声と、初めて逢った時と変わらぬ笑顔が、カティを心地よく迎え入れる。
こころなしか、以前より客が増えたようだった。

「やあ、ルピちゃん、また来たよ!」
「わあ、ありがとうございます、カティさん!」

一ヶ月前と同じように、洗髪台に案内され、ルピに髪を洗ってもらう。

「ずっと髪を洗っていて、手ぇ荒れない?大丈夫?」
「ふふ、大丈夫です。私、肌が弱いので……いつも手袋させてもらってるんです」
「あ、そういえば、前来た時もそうだったような……そっかあ、ずっと手袋も大変だね」
「ありがとうございます、でも、もう慣れましたから!」

少しばかり手際のよくなったルピの洗髪が終わり、名残惜しく思いながら、カティは席に案内される。
愛想は悪いが腕の良い店主に、手早く散髪され……またさっぱりとして、カウンターへ。

「ありがとうございます!銅貨10枚、ちょうどお預かりいたします!」
「うん。ルピちゃんは何時から髪も切れるようになるのかな?」
「うーん、あと何ヶ月かは下積みが続きそうです……」
「そっか、がんばって!俺、ルピちゃんに切って貰うの楽しみにしてるから!」
「!! ありがとうございます、がんばります!」

少しの雑談。ルピは相変わらず、嬉しそうにカティの話に応じてくれた。



次の月も、またその次の月も、カティは天使の輪を訪れた。
ルピはその度、カティを暖かく迎え入れてくれる。
ルピの洗髪が上手になっていくにつれ、ルピとカティは次第に距離を縮めていった。

「いらっしゃいませ、あ、カティさん!今日もカットですか?」
「うん、ルピちゃんにカットしてもらいにきたよ!」
「ごめんなさい、私はまだカットできないんです……」

「ルピちゃん、洗髪上手くなったね~」
「ありがとうございます!もうどんな髪だって洗えますよ!」

「ありがとうございました!銅貨10枚、ちょうどお預かりいたします!」
「ルピちゃん、今日の髪型どうかな、いつもとちょっと変えてもらったんだけど」
「はい!前のも良かったけど、今のほうが素敵だと思います!」
「やっぱり!?いやー、ルピちゃんはよく分かってるなあ!」
「ふふふ……」

「また来てくださいね!」
「もちろん!ルピちゃんが居る限り、俺は此処の常連さ!」


「いらっしゃいませ、カティさん!今日もカットですね?まだ私はできないですけど……」
「うん!わ、俯かないでくれルピちゃん、俺、ルピちゃんに髪洗ってもらうの大好きだから!」
「ありがとうございます!今日も洗髪、がんばりますね!」

「ルピちゃん、ほんとに上手になったよね、洗髪!」
「ありがとうございます、最近は店主さんにも褒めてもらえるんですよ!」
「そっか~!そりゃあ、これで褒められなかったらもう店主がダメだ!
 だって最近、ここの店主より上手いんじゃないかな?」
「そ、そうですか?そう言ってもらえると、うれしいです!」
「へへっ!ところでルピちゃんって、将来の夢とか、あるの?」
「はい!いつか独立して、大通りに自分のお店を持ちたいんです!」
「おお~!すごいね、そうなったら、俺、一番のお客さんになりたい!」
「わあ、私も、カティさんが一番のお客さんになってくれたら……とっても嬉しいです!」

「ありがとうございました!銅貨10枚、ちょうどお預かりいたします!」
「うん。ルピちゃん、いつもお疲れさま!ルピちゃんの夢、俺、応援するから……!」
「ありがとうございます……その……カティさん、いつも来てくれてありがとう!」




そうして、カティとルピが初めて出逢って、5ヶ月が経った。
その日もいつものように、雑談をしながらルピに洗髪してもらい……
店主が髪を切り、またルピがカウンターに立つ。
カティがいつものように安い散髪料を支払うと、ルピはいつものように笑顔を浮かべた。

「ありがとうございました!銅貨10枚、ちょうどお預かりいたします!」
「うん。ルピちゃんも、もう此処に来て結構経つよね!」

「はい!……あの、カティさん。」
不意に、ルピの笑顔が消え、今まで見たこともないような思い詰めた、真面目な顔になる。
カティが驚いていると、ルピは、急に改まって口を開く。

「その……私、来月から、散髪させてもらえる事になったんです。それで……」
いつもは元気なルピが、俯きがちになりながら、必死に言葉を絞り出すように紡ぐ。
「それで……その、カティさんに、私の初めてのお客さんに、なってもらいたいな、って……
 あの、カツラでたくさん、練習しました……だから、きっと上手に切れると思います。だから……」

カティはカウンター越しに、ルピのか細い肩にそっと手を乗せる。
「もちろん!!その、俺なんかでよければ!!」
喜びを隠しようもなく子供のように目を輝かせながら、カティはルピの頼みを快諾した。
ありがとうございます!と、同じように翠色の目を輝かせるルピを見て……
カティは、自分の胸が締め付けられるように痛み、また、何かが沸き立つように弾むのを感じる。

「ありがとうございます……!!
 それじゃあ、来月の一番はじめの日の、閉店間際に来てください!」
ルピの言った時間を忘れないように、慎重にメモをして……カティは、大きく頷いて、店を出た。

「ああ、俺は……」
裏通りを歩きながら、カティは、去り際に見えた、ルピのこれまでになく喜びに満ちた顔を思い出し……
「彼女のことが……」
痛む胸を抑えながら、真剣に、そう、呟くのだった。



夜と深夜の境目……あたりに明かりはなく、秋の虫も鳴くのをやめる頃。

とある裏通りに、「天使の輪」という小さな床屋がある。
その店の入口に、緊張した面持ちでカティが一人立っていた。

「……よし、行くぞ。絶対、成功させる!」

この日の為に、カティは4人居た彼女に頭を下げ、全員と別れた。
この日の為に、カティは新しい服を買った。
この日の為に、カティは白い肌に似合いそうなブレスレットを買った。
この日の為に、カティは教会で懺悔をし、二度と浮気をしないと誓った。
この日の為に、カティは初めて、本当の気持ちを言う為に、鏡の前で練習をした。

「何故」なのかは、もはやカティにとってはどうでもよかった。
彼女は違う……今のカティに分かるのは、それだけだった。

ごくりと生唾を飲み、カティは何かを決意した表情で、天使の輪の扉をくぐる。


「いらっしゃいませ、カティさん!……来てくれて、ありがとうございます!」
閉店間際の店内には、カティを迎え入れるルピの他には、誰も居なかった。

「うん……こっちこそ、呼んでくれてありがとう、ルピちゃん。……ところで、愛想無しの店主は?」
「あの……緊張してしまうので、奥に行ってもらってるんです」
「そ、そっか……」
カティは、何故かしら自分の声がうわずるのを感じた。
何人もの女性を口説き落としてきたが、一度もこんな事は無かった。
初めて口説いた時は、それは少しは緊張したが……それとは全く違う。

「CLOSE」の看板をかけに行くルピに見えないように、カティは僅かに苦笑を漏らした。
(今までのは、全部……偽物だった……って事か……)
しかしその気づきは、どこかで同じ事を繰り返すのではないかと……教会で誓いを立てながらも
不安だったカティの心の暗雲を吹き飛ばし、矢張り自分にとってルピは特別だと
再確認するに充分な効果を発揮した。

看板をかけ終わったルピに、いつものように洗髪台に案内される。
いつものように、優しく髪を洗ってもらう……
緊張しているのか、ルピの手が少しばかり強ばっているのが、伝わってきた。

いつも洗髪の時は弾む筈の雑談も、今日ばかりは無く、沈黙ばかりが場を支配する。
しかし不思議と、カティは居心地の悪さを感じなかった。

洗髪を終え、席に案内してもらい、ルピに髪を拭いて貰う。

「その……本当に、ありがとな、ルピちゃん。俺を、最初の客にしてくれて……」
「いいえ……カティさんしか、考えられなかったんです。……その、こちらこそ……です」

「ルピちゃん、あの……」
「どうされました?カティさん」

勇気を振り絞って、カティは声を出す。やはり声は上擦っていたが、最早構ってはいられない。
「散髪……終わったら、その……は、話したいことが、あるんだ。だから……聞いてくれよな」
「は、はい!あの……もちろんです……!」
鏡越しでさえ、ルピと目を合わせられないまま、カティは話の約束を取り付けた。
本当は、もっと格好良く言えるはずだったのに、自分でも驚くほど、しどろもどろになり、
カティは自己嫌悪したが、ルピがいつもの笑顔で答えてくれたのは救いになった。

やがて髪を拭き終え……いよいよ、ルピの初めての散髪が始まる。
ルピがハサミを持ち、カティの後ろに……踏み台を使って立った。
(ああ、ルピって……こんなに背が低いのか。)
イスに座っている自分にさえ、満足に背が届かない少女を、カティは堪らなく愛おしく感じる。

「それでは……いきます、カティさん!」
ルピは、意を決したように言い、緊張の面持ちで、鏡越しにカティと視線を合わせた。
「おう!」
カティは返事をする。初めての客になれた喜びと、
これから、ほんの少し先への不安と期待が綯い交ぜになり、心が高揚する。

刹那、その高揚を打ち据えるように、カティへ衝撃が走った。
カティは……自分があまりにも動揺し過ぎて、体調不良を起こしたのだと思った。

目の前が一瞬で赤く染まる。

(ああ……マジかよ……やっちまった……)
(台無しだ……これじゃあ、ルピちゃんの、最初のお客さん……できないじゃねえか……)
(くそっ……終わったら、ブレスレット渡して、それから……)
(ああ、きっと……残念がるだろうな……ルピちゃん……)

薄れ行く意識の中、カティは、鏡越しにルピを見る。

(ルピ……ちゃん……?)

鏡の向こうのルピは、驚いてはいなかった。
淡い翠の愛らしい瞳を細めて、口元は人形のように、表情を顕わにせず……

今日、初めて髪を切る筈のルピのハサミは、カティの首筋、頸動脈を的確に抉っている。

「……ぁ?」

何が起きたのか尋ねようとした時には、もう、声も出せなくなっていた。

結局カティは最期まで、自分に何が起きたのか正確に把握できないまま、
痛みを感じる事さえなく、重い音を立て、自分の血でできた水溜まりの中に沈む。

「……」

ルピと名乗っていた少女は一滴の血も浴びず、目の前で崩れ落ちたカティに何の感慨も示さず、
其処に立っていた。

「……終わったの?」
店の奥から声がした。
次いで、豊かな黒髪を波打たせた、真っ赤な口紅の女が姿を現す。

「依頼通り、カティ=レンゼア、抹消完了した。」
少女は無機質な声と、刃のような視線を女に向ける。
女はその視線から逃れるように、少女から目を逸らし、
吐き気を堪えるようにハンカチで口を抑えながらカティの骸に近寄り、
おとがいから脈を取って一つ頷いた。

「ふん……いいざまね、カティ。私というものがありながら、浮気なんてするから、こうなるのよ。
 ……ご苦労様、暗殺者さん。報酬は約束通り、明日届けるわ。
 ……それにしても怖いわねぇ。さっきまであんなに人なつっこい顔してた癖に……」
「死体の確認が終わったら、帰れ。後片付けの邪魔だ」

してやったり、といった満足そうな笑顔で、これから世間話でも始めそうな女の言葉を遮り、
少女は変わらず無機質に告げる。
女は、フン、わかったわよ、と鼻を鳴らして悪態をつき、面白くなさそうにルピに背を向けた。

……次もまた、刹那だった。
少女は身を翻して女の背後より躍りかかり、その心臓を、
隠し持っていた黒塗りの短剣で狙い違わず刺し貫く。

「ッ、が…!!」
「な、に……なん、で……!?」

自分の胸から唐突に刃先が生え、遅れて血が溢れ出す光景に驚愕しながら
女は振り返ろうとするが、少女が刃を引き抜けば、それも叶わなかった。
カティそっくりに、女は自分の作った血溜まりに沈む。
そして矢張り少女は、何の感慨も示さず、一滴の血も浴びずに其処で立っていた。

女が心臓から血を噴き出すのをやめた頃、少女は店の奥へ声を投げかける。
「……終わったぞ」
その声が届けば、愛想のない店主が姿を現した。
「カティ=レンゼア 及び カトリーヌ=フォーレスタ 抹消完了した」
「ああ……ルピちゃん、ご苦労さま。約束の報酬だ、受け取ってくれ……」
抑揚のない少女の声を聞いて、店主は溜息にも似た返事をし、革袋を少女に手渡す。
少女は中身を確認し、それを自分の鞄に仕舞い込み……後片付けの準備を始めながら、店主を見る。

「契約を忘れるな、ロベルト="フォーレスタ"」
「あ、ああ、もちろんだよ……破格で請け負ってもらったからね……それぐらいは、させてもらうよ」
刃のような視線に射竦められ、店主は一歩後退りながらも頷いた。

「……常連客を、あと5人」

少女の静かな呟きに、店主は背筋を凍らせる。





夜と深夜の境目……あたりに明かりはなく、夜桜も暗がりで見えなくなる頃。

とある裏通りに、「天使の輪」という小さな床屋があった。
その店の入口に、複雑な面持ちで立つ金髪の女性が一人居る。

「……ルピちゃん、悩みって何かしら……」

彼女はとても心配そうな表情で、天使の輪の扉をくぐった。


話は四ヶ月前に遡る ―――――

とある裏通りに、「天使の輪」という小さな床屋があった。

店主の愛想は良くないが、安くて早くて綺麗に仕上がり、また、客の素性に関して全く干渉しない上、
ルピという、愛らしく利発な看板娘、兼、腕の良い美容師が居ることで、
裏通りではかなり評判で、男女問わずかなりの客が、かなりやってくる店だった。

今、店に入っていった彼女は、常連客の一人。名を―――

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